はじめに
現在日本には30万人を超える不登校の児童生徒がいます。これは既に家庭や学校だけの問題ではなく、社会の教育構造自体を改善していく必要があることを物語っています。小中学生の日常の学びの場が学校に限定される時代は過ぎ、多様な学びの場が保障される必要性が高まっています。
私はこれまで20年以上様々な教育現場に携わってきました。非行に走った子や、親から見捨てられ孤立した子、障害をもつ子や、不登校の子。様々な個性や環境にいる子供たちと関わる中で、全ての子には自ら学び、個性を発揮して、幸せに生きる力があることを実感しました。全ての子は幸せでいられる。そのためには大人が子供の存在そのものを愛し、育ちを温かく見守ることが何よりも大切だと確信しています。
現状の教育制度も、全ての子供の自立と幸せを願って行われています。しかし、旧態依然の型にはめるような教育に苦しんでいる子がいるのも事実です。「〜あるべき」「〜ねばならない」という大人が決めた「正解」を押し付ける教育が根深く残っています。その呪縛から子供を(大人自身も)解き放ち、全ての人がそれぞれユニークにもつ、「その人の正解」を広げ、認め、自然と社会の一員として包含されていくような教育を私は目指したいと思います。
2022年、たくさんの方々の応援や支援を受け、一般社団法人茨城サドベリースクールは発足しました。茨城の教育の多様性を広げるため、家庭や学校、行政と連携し、隙間を埋めて行くような活動を地道に実践していきます。一人でも多くの子が自分の個性を受け入れ、自由に伸び伸びと育っていけるような環境を整えることに人生をかけて取り組んでいきます。今後とも、ご支援ご協力をどうぞよろしくお願いいたします。
茨城サドベリースクールについて
──代表理事・田中邦東より──
はじめまして。茨城サドベリースクール代表理事の田中邦東(たなか・くにと)です。私はこれまで20年以上にわたり、公立小中学校の教員、スクールソーシャルワーカー、障害児福祉施設職員、オルタナティブスクールの運営など、多様な立場で子どもたちと関わってきました。
こうした実践の中で一貫して感じてきたのは、「子どもたちが本来持っている力を信じ、伸ばすにはどうしたらいいのか?」という問いでした。そしてたどり着いたひとつの答えが、ここ茨城の地で立ち上げた「サドベリースクール」です。
サドベリースクールとは何か?
サドベリースクールは、「自由と責任」を基本とするオルタナティブ教育の場です。年齢によるクラス分けもなく、時間割やカリキュラムもありません。子どもたちは、自らの関心や好奇心に基づいて、学びや遊びを自分で選び、実践していきます。
大人は“先生”ではなく、子どもと共に場をつくる一人のメンバーとして存在します。学校全体は、子どもと大人が対等に一票を持つ「スクールミーティング」によって運営され、ルールもお金の使い方も、日々の出来事も、民主的に決定されていきます。
この「自由の相互承認」の中で生まれる対話こそが、何よりも深い学びの土壌になると私たちは考えています。
なぜこの学校を始めたのか?
日本では、不登校の子どもたちが年々増え続けています。その背景には、現行の学校教育がもつ構造的な問題があると考えています。それは、子どもの主体性や当事者性が十分に発揮されにくいということです。
“やりたいことができない”“やりたくないことをやらされる”という指導構造の中で、子どもたちは自分の内発的な動機づけによる行動が制限され、やがて「どうせ自分なんて…」という無力感に陥ってしまいます。
この状況を変えるには、現状の教育構造の“逆”を行けばいい。そう思いました。
つまり、
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子どもが「やりたいことをやれる」
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「やりたくないことをやらなくてもいい」
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そして、安心・安全が守られ、自分らしくいられる環境がある
そんな学びの場こそが、子どもたちの命と尊厳を守るのだと確信しました。だから私は、自由と自己選択を最大限に尊重し、民主的に運営される「サドベリースクール」の理念に共鳴し、この学校を開く決意をしました。
子どもたちは、何をどう学ぶのか?
サドベリースクールには、決められた教科書や授業はありません。その代わり、すべての学びは「やりたい」という気持ちから始まります。
読書、ゲーム、料理、実験、音楽、自然観察、動画制作、対話、ものづくり──すべてが学びです。自分の関心に従って行動し、その過程でぶつかる課題や葛藤に、自ら向き合い、仲間とともに乗り越えていく。その積み重ねが、他では得られない“生きる力”を育てていきます。
大人は教える人ではなく、必要なときに伴走したり、情報や資源をつないだりする役割を担っています。
民主主義はどう機能しているのか?
日々のルール作りから、お金の使い方、スタッフの採用、トラブル対応にいたるまで、すべては「スクールミーティング」で決定されます。子どもも大人も1人1票、対等な立場で参加します。
ここで経験する「自分の言葉が誰かに届くこと」や「違う意見に触れること」「納得できるまで話し合うこと」は、社会を生きるうえで非常に重要な“民主主義の基礎体験”になります。
決まったルールには責任を持って従い、変えたければまた提案する。この繰り返しが、子どもたちに「自分たちで社会をつくる力」を育てていくのです。
卒業生たちはどう生きているのか?
2025年3月には、茨城サドベリースクールから中学3年生たちが卒業しました。それぞれのペースで高校に進学し、新しい環境でまた学びを深めています。また、卒業後もボランティアやアルバイトスタッフとして関わってくれている子もいます。
全国のサドベリースクールの卒業生たちも、自分の関心に従って進学・就職・起業・海外留学など、実に多様な道を歩んでいます。
私たちが何よりも願うのは、「自分の人生を、自分の責任で選び取れる人になってほしい」ということです。
社会の“正解”ではなく、自分自身の“納得”を大切にして生きていく。
そして、他者と共に響き合いながら、自分らしい人生を創造していく。
そのための土台となる時間を、ここ茨城サドベリースクールで過ごしてもらえたら、こんなにうれしいことはありません。